あの時からの10年の歩み ~吉澤ステーブルWEST~

2021/03/12

 

皆さま、こんにちは。京都サラブレッドクラブです。

 

東日本大震災からちょうど10年。被害の大きさは皆さまご周知のとおり。もちろん競馬にかかわる施設も例に漏れず、北海道の浦河以外に、当時福島にも牧場を構えておられた吉澤ステーブル様も被災されました。

 

この震災がきっかけとなり、その翌年の2012年には場所を滋賀県・信楽町に移して「吉澤ステーブルWEST」を開設。株式会社吉澤ステーブル様としては現在、WESTの他、前述の浦河の本場、そして茨城県の吉澤ステーブルEAST、滋賀県の湖南馬事センターの4拠点を運営されておられます。

 

今回は、クラブ所属馬のプレシャスガールがお世話になっているWESTを中心に、吉澤ステーブル様をご紹介。WESTの担当者様にお話を伺いました。

※屋根付きトラックコース

 

こだわり抜いた3つの方針

吉澤ステーブルと言えば、競走馬の育成・調教・休養等に携わる中で、ご存じのようにこれまで多くの名馬に関わってこられた実績があります。そうした運営のキャリアで、最も重要視してきたが「飼料」「トレーニング」「装蹄」の3つです。

 

「エサにつきましては、まずはエネルギー摂取のことを一番に考えています。野生よりも、競走馬の方がエネルギー消費量は多いですからね。もちろん状態に合わせますので、馬それぞれに食事メニューも違います」と同ステーブル担当者。

 

また2つめのトレーニングにおいても、各馬個別に細かく調整方針が定められていますが、今では一般的になりつつある馬術(乗馬スタイル)を、いち早く取り入れた点も見逃せません。

 

「3つめの最後は“装蹄”です。極端なことを言えば、片目を失っても走っている馬がいますが、蹄の病気は致命傷になるケースもあります。また大地の疾走を運命づけられたサラブレッドの体で、唯一地面と接しているのが蹄ですから、そこに気を遣うのは当然だと思います」。いくら高性能のエンジンを積んでいても、タイヤが悪ければパフォーマンスが落ちてしまうレーシングカーと同じ。吉澤社長自らが、蹄を細かくチェックされるのも日常の風景だとか。

 

全国に4拠点を展開

また、他の外厩施設と比べての大きな利点は、前述のように拠点が4つあること。中継点としても活用できることで、長距離輸送の負担を軽減できる他、人材育成が目的の主である湖南馬事センターでさえ、故障などによる完全休養が狙いの馬の放牧先として利用しています。「テンションが上がりすぎたプレシャスガールも、リセット目的で一時期、同センターに移動させたりもしました。そうした各施設の連携も吉澤の強み」とのことです。

※屋根付き坂路コース

 

WESTでの調教内容

吉澤ステーブルWESTは全215馬房。時期によって差はあるものの、平均して約9割近くの馬房が稼働しています。調教で活用するメインの設備が全長約650mの屋根付きウッドチップ坂路です。そのうち約400mが計測可能な走路となっています。他では、同じく屋根付きのトラックコース(500m)や角馬場など。「坂路はスタートから3.5%の勾配がありますので、結構キツいですよ。ラスト1Fは、古馬なら12秒台前半を出せますけど、デビュー前の馬などは13秒を切れば走力がある方ですね。トラックではハロン17~20秒ほどのキャンターが中心となります」と担当者。また、『馬用全身振動機器 Equivibe』を設置しているのも特徴の一つ。振動の強さを数段階の単位で変えることができ、「主に筋肉をほぐすための装置。運動前に使用することもある」ようです。

※エクイバイブ(上)と主装置(下)

 

最後に

吉澤ステーブル様に、ブログ取材のお申込みさせていただいたのは、実は2~3回目。今回ようやく実現した形になります。理由はコロナ禍・・・。

「何度かアポイントをとっていただいていたのに、直前でキャンセルとなってしまい、すいませんでした(笑)」と担当者。

そう言われると逆に恐縮。このご時世ですから、我々のような部外者は最大限の注意を払う必要がありますので、訪問できないのは当たり前です。ただ、こうした場面で驚かされるのは、吉澤ステーブル様の群を抜いた行動の速さ。緊急事態宣言が近畿地方で出る方向になれば、ただちにピシャリと入場制限がかかります。もちろん多くのスタッフを抱える同ステーブルとしては当然の判断。

 

「そこは調教師の先生にもご理解を得ながら決めております。もし感染者とかが出れば、関係者にもっとご迷惑をかけてしまいますからね。競馬界のことを考えれば、判断にも迷いはありません」。

 

素早い判断と行動、そして徹底。このリスクマネジメントは、吉澤ステーブルWESTの立ち上げまでの経緯にも通じる部分があるように感じました。