名張ホースランドパークの強み ~創意工夫の精神と逍遥馬道~
三重県にある競走馬の育成施設・名張ホースランドパーク内にはいくつかの外厩があります。そのうち、当クラブで預託させていただいているのは、優楽ステーブル様やランドウィック様等です。
以前のブログでも名張ホースランドパークを取り上げたことがありましたが、このたびアップトゥザナイン号(ミティーク19)がランドウィック様に入厩したことから、改めてどのような施設かをご紹介したいと思います。
自然の地形を生かした設計
名張ホースランドパークは2014年に開設。一度に180頭ほどの育成が可能です。特徴を一言で言うと、「自然の地形を生かしたトレーニング施設」。その中心となるのが全長700~800mの坂路コースとなります。コースの全長すべてに勾配があるわけではなく、走路の一部はフラット気味です。
※坂路コースのスタート地点
「例えば大きなトレーニング施設に比べると、同じ坂路だけで言えば負荷の点においてはこちらの方が少し浅めかもしれません。ただ登坂本数を増やせば、その点はカバーできますからね」と外厩担当者様。続けて「我々が名張の強みを理解し工夫をすれば、より十分な負荷をかけることができますし、精神面のケアもこの施設ならではのものがありますよ」とのこと。
“工夫”と“精神面のケア”とは何を指しているのか? それが、次に紹介する「逍遥馬道」です。
全長1㎞の森林空間がもたらす効果
逍遥馬道は、坂路を登り切ってから、再度スタート地点まで戻るルートとなります。距離は約1㎞と長く、また馬が踏みしめるのはゴムチップ入りのダート。かなり深くて、人間が歩くには相当なパワーが必要に。ただしクッションが効いていて、蹄に優しい馬場となっています。
※鍛錬しつつも、リラックスできる空間
「馬道のアップダウンが激しく、ここを歩くだけで結構なトレーニングになっていると思いますし、歩様のバランスを整えることもできますね」(外厩担当者)。
名張の施設は山間にあるので、道を作ればおのずとそれが起伏になります。確かに見ただけでも、担当者の言葉が十分理解できるほどのアンジュレーションです。また、馬道の周りが木々で囲まれているため、調教前後の馬の精神面には非常に効果的な作りで、抜群のロケーションと言えます。現在は調教の時間帯以外に、道幅を更に広げるための工事を行なっている最中。しばらくすれば、これまで以上のゆとりある森林空間が実現することになります。
※坂路を登り切ってから逍遥馬道に入るルート。いきなり急勾配。
馬のためになるなら、あえて遠回り
“工夫”の部分で言えば、角馬場での運動を経て、あえて遠回りをしてでも、その逍遥馬道を歩かせてから坂路に入れたり、調教後は真っすぐ厩舎に戻れるところを、より急坂の別ルートを選んで引き上げたり・・・。その分、稽古にかける時間はかなり長くなっているようですが、外厩担当者は「機械的にパッパッと進めていくのは好きではありません。この仕事には効率以上に大切なものがありますから」と。合わせて、コンパクトな設計の施設であっても、「その中で創意工夫をする楽しみもある」と話されてもいました。
※深いダートが敷き詰められた、厩舎に通じる馬道。かなりの急坂。
アップトゥザナインはこちらでじっくりと、競走馬としてのトレーニングを積んでいきますが、取材時に見た同馬は、入厩直後で見るものすべてが新しい場所だけに、どこか落ち着かない様子も。ただそこは時間が解決してくれるところでもありますし、ましてや時を惜しまずに寄り添ってくれるスタッフがいる環境は、我々にとっても、同馬にとっても大変心強いものです。『念入りに』との意味も含む馬名にふさわしい仕上げで、次にここで会うときは、一層逞しく成長した姿を見せてくれるのではないでしょうか。