北枕鳩三郎の推奨馬③ ~レディナデシコ2023~
競走馬は立ち姿の時点で良く見せてしまうと、それだけでセリ価格は上昇します。特にトモのお尻の筋肉を大きく見せる馬は、単純に見栄えがするので誰の目にも留まり、往々にして限られた予算のなかでは“競り落とすことが難しい馬”ということになります。セリ会場にはその道のプロから、初めてセリに参加するような馬主を含めて様々な関係者が各馬をチェックしています。その中で誰が見ても目立つような馬体や動きをする馬が高くなるのは当然です。人気馬であっても抽選次第で何人もの会員さんが出資できる一口馬主の世界とは異なり、セリは相手が誰もいなくならない限り落札することができません。どれだけ他のバイヤーを出し抜くことができるかの戦いでもあります。
サマーセール6日目の最終日に上場が決まっていたレディナデシコの23は、下見当時から狙っていた1頭でした。だだし、上記で述べたようなトモの大きな見栄えのする馬。当初は予算内で落札できる可能性は非常に低いという読みでした。「なんとか落札できる可能性はないかなぁ」と色々と考えを巡らせます。馬単体であれば予算内は厳しそう。しかし、一口馬主歴の長い会員さんであればご存知だと思いますが、本馬レディナデシコの23の祖母にあたるサッカーマムの系統は黒くて見栄えのする産駒を送り出すことで有名です。その割には意外と活躍馬が少ないということもあり、ブラックタイプ的には強調材料に乏しいので、相手が買い控えする要素になるのではないかと考え始めました。隙が生まれるとすればその部分だけ。
実際に活況が続いた最終の6日目でしたが、運よく、なんとか予算内で競り落としてもらうことができ、募集馬のラインナップに加えることができました。落札の瞬間は嬉しかったですね。サマーセール6日間、計1200頭以上の全頭を見たなかで、最も欲しかった馬を落札できたのはただただ幸運でした。
クラブコンセプトに合った予算で落札できる馬を探すには、何かしらの妥協点を見出さなければなりません。それが馬体的なものであったり、ブラックタイプが薄かったりと、競る相手が少ない馬を選ぶというのが大前提となります。今まではトモが大きな目立つ馬というだけで回避していましたが、今回は少し予算を上げていただき納得のいく選馬ができたと自負しております。過去2世代でご出資していただいた会員の皆様のおかげです。心から感謝申し上げます。
さて、実馬はディスクリートキャット産駒の良さであるコンパクトなまとまりのある馬体のシルエットながら、トモや肩まわりの筋肉量は豊富で、且つ、適度な可動域と捌きの柔軟性が際立っており、いわゆる剛柔のバランスが取れた馬。歩様時に、運動神経の良さを感じさせる前捌きの回転の速さも特筆モノです。母父ワイルドラッシュは馬格のある見栄えの良い仔を出す種馬でしたから、本馬も多分にその影響を受けているとはいえ、トモのボリューム感だけは凄まじいものがあります。これはキングマンボやストームキャットの血がはっきりと強く出ました。あのトモならば、マイルを中心にスプリント能力にも秀でた快速馬として活躍してくれるはずです。
自分が選ぶ馬は手先の軽さや後肢の踏み込みのバネ感といったように、ある程度の基準があり、それをクリアして初めて候補となりますので、必然的に似たような歩様の馬が多くなります。しかも、基本は芝馬です。芝向きの柔らかさは、時に緩さと紙一重でもあり、慎重に見極めなければなりません。本馬に備わったスピード能力は、後肢の造りとバネ感で間違いなく一流のものがあると推測できますが、唯一の懸念点は前肢の繋の反発力の部分。柔らかすぎる馬を避けると、逆に繋には柔軟性ではなく反発力を求めてしまいます。それが前肢の故障に繋がるリスクと同居しますので、相馬の世界では意見の分かれるところでもあります。坂路では問題なくとも、フラットワークでは上体を起こして走れないと、前肢に負担がかかりすぎて故障を引き起こす原因にもなります。
今回、預託をお願いした小栗調教師はまだキャリアは浅くとも、その馬造りと総合的な厩舎力をみるに、今後、日本のトップトレーナーに成り得る存在だと思っています。全幅の信頼を持ってお預けすることができます。芝ダート、また短距離から中長距離まで、様々なカテゴリーで勝ち星を量産する手腕は本馬レディナデシコの23が持つポテンシャルを最大限に引き出してくれるでしょう。どんな風に仕上げてくれるのか、新馬戦のパドックが楽しみで仕方がありません。