北枕鳩三郎の推奨馬④ ~ハナズルナピエナ2023~
サマーセール前の段階で、今年度の募集馬ラインナップにカレンブラックヒル産駒は2頭予定されていると聞いていたので、もう既にクラブとしては、カレンブラックヒルはお腹いっぱいなのではと、そう当初は考えておりました。それでも、この馬を見る度に、絶対に落札しておいたほうが良いレベルの馬だと感じていたので、クラブの同意を得て落札に至ったという経緯があります。
カレンブラックヒル産駒は馬体の良さがそのまま競走成績に繋がる、比較的、わかりやすい種馬と言え、特に牝馬はその傾向が強いと考えています。馬格的にも中型サイズにまとまれば芝での軽さも望め、また、ダートでも潰しがきくので非常にコストパフォーマンスに優れた種馬だと言えます。本馬もちょうどよいサイズ感ですので、芝のマイル以下でスピードを活かした競馬が向きそうです。
ご覧いただければわかると思いますが、馬体の良さと歩様の安定感だけ見ても、この落札価格で落とすことができたのは奇跡に近いものがあると思います。歩様時の可動域は広すぎず、適度な完歩の大きさからして、スピードの乗りは悪くないはず。繋の長さと角度からも、芝馬としての才を感じさせます。カレンブラックヒル産駒はその父であるダイワメジャー産駒よりも総体的にみると筋肉量は少なめですが、筋肉の質感は父産駒ほど硬質ではなく柔軟性に富んだ仔も稀に出します。本馬ハナズルナピエナの23も、芝向きに出た父の産駒の特徴を備えているので、地方の深いダートでは持ち味を活かせない可能性があります。中央の芝でデビューできずに埋もれてしまう競走馬というのは意外と多く、芝向きの馬体や歩様を加味されず、ブラックタイプの薄さや落札価格だけで判断されてしまうケースは往々にしてあります。そういう芝馬を発掘するのもセリの面白さですし、実際に結果が伴うと自信にも繋がります。個人的に親しくさせてもらっているグランデファームの衣斐代表もよく言及されているように「競走馬はブラックタイプだけで決まるわけではない」と実感できる場面が何度もありました。過去に他の馬主さんのために落札した馬でも同様のケースはありましたし、競走馬の持つ不思議な魅力の一つと言えます。
本馬の良さは何と言っても馬体の造りに欠点らしい欠点がないこと。すべてにおいて水準以上、とにかく平均点の高い馬だと言えます。細かく馬体を見ていきますと、現状では若干の腰高体型。牝馬のほうが腰高に出やすいので、それを考えれば適度な前傾姿勢といえ、スタートしてからのスピードの乗りも良いタイプでしょう。また、この時期としては馬体の完成度も高く、父産駒の傾向どおり早めからの始動が可能な馬だと思われます。飛節は折りの深さを含め標準的な造り。曲飛でもなく直飛でもありません。この辺りにも、この馬の平均点の高さが窺えます。肩まわりやトモの筋肉量も申し分なく、牝馬としては十分すぎるほど。関節の可動域を見ても、跳びが大き過ぎて不器用な馬になるイメージもありません。一つ上の半兄ロイヤルイブキもダートの短距離戦で、メンバーが揃った中でもスピードのあるところを見せており、勝ち上がりが十分に期待できる素材。今のところ、母の産駒に目立った活躍馬はおりませんが、本馬は一味違うといった印象があります。
競馬場のパドック最前列で30年以上、実馬を見てきましたが、現役馬の相馬と1歳馬のそれとは見方を大きく変えなければなりません。ある意味、完成形である現役競走馬と、成長途上である1歳馬とでは、見るべきポイント、評価する部分も変わるのは当たり前。しかし、当初はその擦り合わせに非常に苦労いたしました。過去形にしていますが、今現在もトライアンドエラーの繰り返しです。競走馬にとって一番重要なのは“成長力”です。成長によって、良くも悪くも変化するということ。その変化をどう推察するのか、一種の推理ゲームのような側面も持ち合わせています。セリ場に足を運ぶようになってから25年以上経ちますが、理想である競走馬の形は現役のスーパーホースたちから学ぶことはできました。ただし、その馬たちの当歳時や1歳時の姿というのも、本当に多岐にわたり、共通点を見いだそうとしても言葉にしてまとめるまでにはいたりません。頭ではなんとかイメージでき始めているというのが現状です。
また、競走馬の成長力を推し測る手段として、一番有効なのが血統です。同じ父から産まれた産駒をたくさん見れば見るほど、その後の成長の過程も予測はつきやすくなります。もちろん、父だけではなく、単純に母父の特徴や、母系の影響力も加味するのは当然のこと。馬体と血統は切っても切り離すことができない密な関係にあり、どちらか一方だけでは競走馬の本質には決して辿り着けません。競馬場であってもセリ場であっても、馬体や歩様を見る時は常に血統を強く意識して見ること。また、その逆に、血統や配合から産まれてくる仔馬の馬体をイメージしたり、新馬戦のパドックで答え合わせをしたりと、馬体と血統を結び付け、学ぶ機会をたくさん持つことも大事です。
ハナズルナピエナの23は既に産駒傾向が固まりつつあるカレンブラックヒル産駒です。経験上、大きなズレが生じるとは思えず、かなり確実性の高い1頭だと考えております。