人づくり・馬づくり ~信楽牧場~

2021/01/14

 

毎月のように訪問させていただいている滋賀県・信楽。ある意味、関西のサラブレッド銀座と呼べるこの地域には、ノーザンファームしがらき・吉澤ステーブルWESTなど、著名な外厩先が名を連ねます。その中の一つ、信楽牧場は数十年の歴史を持つ老舗。競馬ファンならご存じの方も多いと思いますが、栗東・中内田調教師のご家族が運営されている牧場です。

京都サラブレッドクラブの所属馬としてはビジョ号、レジュレクシオン号がお世話になっております(1月13日現在)。この2頭に共通して言えるのが、信楽牧場在厩中に馬体がフックラとして、目方が大きく増えてきた点。例えばビジョは、中央競馬出走時が470㌔前後、レジュレクシオンは410㌔台。もちろんトレセンの調教では馬体が締まってくるので、通常は牧場よりも体重が落ちてくるものですが、信楽牧場にいる間はビジョ号が500㌔ほどで、レジュレクシオンに至っては450㌔台まで回復しました。

「ウチは自前で牧草を生産しています。我々の業界で言うと、そういうところは少ないかもしれませんね。だいたい4月から11月ぐらいまでは、新鮮でみずみずしい青草を与えることができます。ある程度の量をしっかり食べていくと、今度は胃袋が大きくなります。すると更に食べる量が増える。馬が青草を美味しく感じるから、そうした循環を生むことができると思うんです。トレセンなどで飼食いの良くない馬が、ウチへ来てからしっかり食べるようになったという声もよく聞きますよ」

※上記のような牧草地が7面あります。

 

そう話すのは中内田場長(以下、場長)。体重が増加してくるのは、やっぱり理由があるみたいです。

ただ、取材をさせていただいて感じたのは、フックラする要因が食べることだけではないのでは?という点。信楽牧場へ来ていつも思うのは、訪問者から見えない場所も整理整頓がキチッとなされているところ。他の外厩施設ももちろん美しいのですが、ここはそれに輪をかけて・・・という印象です。場長は「そんなことないですよ。無駄に広いからそう見えるだけです(笑)」と謙遜されますが・・・いや、間違いなく綺麗です。

「ただ、リフレッシュが放牧の目的であることが多いですからね。。馬がストレスを感じない空間を突き詰めると、整理整頓になるのかもしれませんね」と場長。ストレス軽減の配慮も、体作りに大きな影響を及ぼしているはずです。

※牧草地に囲まれたサンシャインパドック。

 

信楽牧場のスタッフは20名ほど。これまで当ブログで紹介させていただいた外厩施設と比べると、その規模は小さくなりますが、馬づくりの実績はもちろんのこと、人づくりの実績も目を引きます。信楽牧場での経験を経てJRAのトレセンにその活躍の場を移したのは合計70~80名。助手、厩務員など多岐にわたりますが、調教師も中内田師以外に北出調教師、今野調教師が同牧場出身者になります。場長も「確かに人づくりは、私自身もこだわって力を入れている部分です」と話されていました。スタッフに関しては、希望する人間がいれば、積極的にイギリスなどでの海外経験を積ませているとのこと。期間についても、短期~長期など当人が希望する日程で送り出しています。「自分もいろんな国の競馬を見てきましたけど、実際得るものが大きかったですからね。若い子にも同じ経験をさせてあげたいという思いです」と場長。「ただ、英語が通じないからという理由で、すぐに帰ってきた者もいましたけどね(笑)」。それでも貴重な経験であることに間違いはありません(笑)。

※周回800mのトラックコース。

 

トレーニング面では、2つの異なる性格のトラックが中心になります。一つは1周800mのダート周回コース。かなり深めの馬場のように見えます。牧草地の一部をぐるりと取り囲むように作られており、広々として雄大なだけでなく、見ているだけで心が和むような環境。馬も同じように感じるのではないでしょうか。

もう一つの周回コースは1周200mで小さめ。同じくダートですが、砂の色合いが違います。「こちらの馬場は、ゴムチップ入りになっていて、小さいコースながらも負荷をかけることができるようにしています」(場長)。調教師によっては、小さめの馬場を使ってトレーニングしてほしい、という要望が出ることもあります。

※周回200mのトラック。ゴムチップを含んだダートコース。

 

「調教師がゴムチップの方を使ってほしいという理由は、単純に負荷のことだけでなく、実は場所の違いを挙げられる先生もいらっしゃいます」と場長。どのようなことかとお尋ねすると「ゴムチップの馬場は、広い800mの馬場よりも小高い場所にあって、そこに別の厩舎も置いています。この場所がすごく静かで、イレ込む馬にはいいんですよね」とのこと。馬房をその厩舎にして、すぐ隣のゴムチップ馬場で軽く運動をさせ、そこから800m馬場に移動させて稽古をするというパターンも好まれるようです。「付け加えると、ゴムチップコースから800m馬場に移動する際に、牧草地の間を通り抜けるのですが、『この移動のルートが馬の精神面に良い』とおっしゃる調教師もいますね」。美しい景色が目に浮かびます。4月~11月にもう一度来て、この馬道を是非見てみたいと思いました。

※牧草地に挟まれた馬道。この先を下っていけば800mの周回コース。

 

最後に。こちらが馬体写真を撮りに来た時、馬を引いてきていただいたスタッフに、的確・迅速にピシッと指示されるのは中内田場長。「もう半歩前!そう!もう少し・・・ストップ!」。お陰様で、未熟な私でも一定レベルの品質(?)で、会員の皆様の愛馬をカメラに収めることができております。

いつもありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。