北枕鳩三郎の推奨馬② ~ワンメイク2023~
個人的にはサドラーズウェルズの血はあまり好きではありません。四肢を太めに出すことと緩めの寝繋を遺伝させやすい傾向があり、特に後肢は、飛節の造りを中心として極太に出やすく、日本のスピード競馬には適さない馬が多いと感じてきました。しかし、近年は代を経てサドラーの血の影響力が薄まり、むしろ、サンデー系統には足りないパワーを補完する血として、大きな役割を果たすようになっています。サドラー色が強いからと言って毛嫌いしていると、素質馬を見逃してしまう時代です。若干、乗り遅れた本人が言っているので間違いありません。
そんな中、ワンメイクの23の父ヴァンゴッホもサドラー色の強い種馬のようでして、産駒を何頭も見てきましたが、四肢の太さと関節の可動域の広さといった、いかにもサドラーな特色が前面に出た仔が多かったです。アメリカンファラオ産駒もどちらかと言えばダート種牡馬のわりに関節の動きが柔軟な仔が多いので、ヴァンゴッホ産駒は総じて緩さが目立ち、日本のスピード競馬にはあまり適さないだろうと考えています。
しかし、ワンメイクの23は初見からしてちょっと異質でした。セールよりも前の下見の段階で、ヴァンゴッホなのに“軽さ”がある造り。歩かせても四肢が連動した軽い捌きを披露してくれたので、「この馬だけはちょっと違う」と感じさせました。
首が長めで位置が高く、四肢もスラッと伸び長めなことからも、距離の適性は中距離以上の芝にあると考えます。馬体のシルエットや捌きを見ても、あまりサドラーの重々しさは感じさせませんから、スピード競馬にも対応し機動力のある走りが期待できます。歩様時には、本来の自分の好みよりは後肢の繋の角度が鋭角に入ってきますが、十分な反発力が備わっており踏み込みの甘さには繋がっていません。また、カタログの立ち写真では左前の膝が少し被っているように映りますが、歩様動画を見ていただければわかるように普段はそのようなことはなく、撮影時のタイミングの問題だと思われます。中山のような小回りの中距離芝で早め先頭から押し切る競馬を得意としそうですし、蹄や繋の形状からは道悪も苦にしないとみています。
サマーセール初日はこの馬1頭のみを狙っての落札でしたので、十分すぎるほどの成果でした。また、酒井牧場さんが大事にしてきたダジルミージョリエの牝系だけに、アッミラーレの曲飛が大好きだった自分としても、ワンメイクの23が今後、どのような馬体の成長と変化を見せてくれるのか非常に楽しみです。5月下旬の遅生まれにもかかわらず、現時点でも馬格は十分すぎるほど。早くから始動できそうなタイプですが、本格化は先。古馬になって更に馬体が充実した際には、ダート馬としての大成も期待できるでしょう。
会員の皆様に注目して見ていただきたいのは、他のヴァンゴッホ産駒との違いです。ネットで探してみてください。適度な範疇におさまっている関節の可動域や繋の強度など、歩様の質に影響のある部分に大きな違いを感じるはずです。また、産駒傾向よりも背中のシルエットは短く出ました。背腰に溜まる疲れも最小限にとどめ、クラブコンセプトに合った戦績を歩んでくれるでしょう。ヴァンゴッホの初年度産駒の一番馬としての期待が持てます。
懸念材料としてはブラックタイプの薄さと出産時の母の年齢でしょうか。活躍馬を多く出す活力のある牝系かそうでないかの違いがセリの落札価格に大きな差をもたらすのは、それだけ、いわゆる良血であればあるほど担保される能力というものに差があるからです。一般的には、1歳時の馬体からでは推し測ることができない心肺機能の高さや成長力、競走にいってプラスに働く前向きな気性といった部分が、活躍馬の多い牝系が伝える好要素です。良血で馬体が良ければ、走る可能性が高いのはそういった背景があるからです。
では、決められた予算のなかで戦わなければならない立場の場合、どこに重きを置くべきか…。それはそう難しい問題ではありません。たとえ近親に活躍馬が少なくとも、その馬体と歩様の良さで、良血馬たちを凌駕するだけの素質馬を探し出すほかありません。生まれた家柄や両親の経済力で決まる社会ではなく、本人次第で下剋上をも可能にするのが競走馬の世界の面白いところでもあります。会員の皆様と一緒に、そんな夢を見させてくれるのが京都サラブレッドクラブの良さではないでしょうか。
最後に、預託予定の辻厩舎は、派手な血統馬でなくともバンバン走らせているように、地味な血統や色んなタイプの競走馬に対しても、その個性に合わせて素質を開花させることのできる手腕があり、仕上げの上手さはもちろんのこと、レース選択と騎手起用にかんしても、馬の適性把握に優れているので的確です。任せて安心。新種牡馬の産駒でも先入観を持つことなく個体重視で取り組んでくださり、きっと本馬の全能力を発揮できるよう導いてくれるはずです。